名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)6号 判決 1970年7月31日
名古屋市中村区納屋町二丁目五番地
原告
田島正道
右訴訟代理人弁護士
奥村仁三
名古屋市中区三の丸三丁目三番二号
被告
名古屋国税局長
名古屋市中村区牧野町六丁目三番地
被告
名古屋中村税務署長
右被告両名指定代理人
中村盛雄
同
横井芳夫
同
井原光雄
同
須山米一
主文
原告の被告名古屋国税局長に対する請求を棄却する。
原告の被告名古屋中村税務署長に対する訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、被告名古屋国税局長が昭和四四年一二月一日付で原告に対してなした原告の昭和四二年分所得税の更正処分および過少申告加算税賦課決定処分に対する昭和四四年九月二二日付審査請求の審査請求却下の裁決を取消す。被告名古屋中村税務署長が昭和四四年四月二一日付で原告に対してなした原告の昭和四二年分所得税の更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、(一)被告名古屋中村税務署長は昭和四四年四月二一日付をもつて原告に対し、原告の昭和四二年分所得税につき所得税額金三二八万四、八〇〇円、過少申告加算税金一四万六〇〇円とする更正ならびに過少申告加算税の賦課決定処分をした。(二)原告はその同年度分所得税は金四七万一、二〇〇円が正当であるので右各処分を不当として法定の期間内に同被告に対し異議の申立をした。(二)ところが同被告税務署長は原告の右異議申立を棄却し、その決定書は昭和四四年八月二五日、原告が入手したので法定の期間内である同年九月二二日原告は被告名古屋国税局長に対し審査請求をなした。(三)ところが右被告国税局長は同年一二月一日付をもつてこれを却下した。(四)しかし右却下は全く不当である。右却下の理由によると右被告税務署長の異議申立棄却決定は同年八月一六日に原告に送達されたものとしているが原告は同日右異議申立棄却決定の送達を受けた憶えはない。尤も右八月一六日に右異議申立棄却決定は原告の父儀兵衛のところへ無理に受取れと要求され儀兵衛が名下に拇印を押して受取つたのであるが、同人は原告と同居の親族でもなく、これに対する送達は原告に対する送達とはいえない。原告は出張から帰り同年八月二五日右儀兵衛より右書面を受け取つたものであるから右八月二五日をもつて原告に送達されたとみるべきものである。しかも審査請求の申立が却下されたときは裁判所は実体的に所得の正否につき審査しえて右被告税務署長の右更正決定の取消変更をなすことができるものと思料する。以上の次第で右被告国税局長の右審査請求却下の裁決は違法であり、また右被告税務署長の前記更正および過少申告加算税賦課決定処分も不当であるからいずれもその取消を求める。と述べた。
被告名古屋中村税務署長は被告名古屋中村税務署長に対する訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、理由として、本件課税処分の取消を求める訴は国税通則法(昭和三七年四月二日法律第六号)第八七号第一項の規定による不服申立の前置を欠く不適法なものであるから速かに却下されるべきものである。即ち原告は本件更正処分に対する右被告税務署長のなした異議申立棄却の決定に対して更に不服があるとして右被告国税局長に審査請求書を提出したのであるが同被告国税局長は、右審査請求は国税通則法第七九条第三項の規定によるも提出期間経過後に提出された不適法なものであるとして行政不服審査法(昭和三七年九月一五日法律第一六〇号)第四〇条の規定により却下の裁決をなしたものである。右被告税務署長は昭和四四年八月一六日午前一一時五〇分頃その職員生田謙一をして右異議申立棄却決定通知書を原告の所得税確定申告書に記載された住所地たる名古屋市中村区納屋町二丁目五番地(ただしその後調査したところによると住民登録による原告の住所地は同市中区東橘町二丁目六六番地である。)に交付送達させたところ、原告が不在であつたため、やむなく同所にある原告が役員となつている晃和商事株式会社の社長室において右棄却決定通知書が遅滞なく原告に到達することが強く期待できる原告の実父であるとともに右晃和商事株式会社の代表取締役であり、しかも住民登録の住所地は原告と全く同一である田島儀兵衛に右棄却決定通知書を交付した。原告は右棄却決定通知書を右田島儀兵衛から受け取つた日は出張から帰つた昭和四四年八月二二日であるとして、それから一ケ月以内の同年九月二二日右被告国税局長に対し審査請求書を提出したが同被告国税局長は国税通則法第七六条第一項の規定による処分に係る通知を受けた日は同法第一二条第五項第一号の規定の趣旨からみて同年八月一六日が正当であり右審査請求書は同法第七九条第三項の規定により一ケ月以内の同年九月一六日までに提出すべきものであるにかかわらず右法定期間経過後に提出されたものであるから不適法なものであるとして行政不服審査法第四〇条の規定により却下の裁決をしたものである。したがつて右審査請求が不適法であるとして却下されたものであるから右被告税務署長に対する訴は不服申立の前置を欠く不適法な訴というべきである。と述べ、被告名古屋国税局長は同被告国税局長に対する訴を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実(一)のうち所得税額の点を争いその余の点を認め同(二)のうち、原告が本件異議申立棄却決定通知を受けた日は昭和四四年八月一六日であるがその余の点を認め、同(三)の点を認め、同(四)のうち審査請求棄却の理由の趣旨および昭和四四年八月一六日原告の父儀兵衛が署名拇印を押し名古屋中村税務署の職員より右異議申立棄却決定通知書の交付を受けた点を認め、原告が出張から帰つた同年八月二五日右儀兵衛より右通知書を受領した点は不知と述べ原告が右儀兵衛と同居していないことを否認し、その余の点を争い、同被告国税局長の主張として、本件審査裁決処分は右被告税務署長が本案前の答弁の理由で述べた通り不服申立期間を徒過した後になされた本件審査請求に対してこれを却下したもので何等の違法はない。したがつて原告の本件裁決の取消を求める訴は速かに棄却されるべきである。と述べた。
証拠として、原告は甲第一、第二、第三号証を提出し、証人田島儀兵衛、同北条儀平の各証言と原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認め、被告等は乙第一乃至第四号証を提出し、甲第一、第二号証の各成立を認め、甲第三号証の成立は不知と述べた。
理由
請求の原因たる事実(一)のうち所得税額を除くその余の点と同(二)のうち原告に異議申立棄却決定通知のなされた日(従つて法定期間)を除くその余の点、同(三)の点同(四)のうち原告の父田島儀兵衛が昭和四四年八月一六日名下に拇印を捺し右異議申立棄却決定通知書を受領した点、審査裁決却下の理由の趣旨の点はいずれも当事者間に争いがないか又は明らかに争われないので自白せられたものと看做す。而して国税通則法第七九条第三項は同法第七六条第一項の規定による税務署長に対する異議申立て(同項に規定する期間経過後にされたものその他その申立が適法にされていないものを除く。)についての決定のあつた場合において当該異議申立をした者がその決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者はその通知を受けた日の翌日から起算して一ケ月以内に、その決定をした税務署長の管轄区域を所轄する国税局長に審査請求をすることができる。と規定し右の「通知を受けた日」とは社会通念上一般に当該異議申立をした者が右通知を了知しうべき客観的状態を生じたものと認められる日を意味するものと解するのを相当とするところ成立に争いのない甲第一号証、乙第一乃至第四号証、証人田島儀兵衛の証言と原告本人尋問の結果によると原告の実父田島儀兵衛は原告が居住しておりまた原告が専務取締役で右儀兵衛が社長である晃和商事株式会社の所在地でもある名古屋市中村区納屋町二丁目五番地の右会社社長室において原告の代(代理人の趣旨)として右異議申立棄却決定通知書の交付を受けたこと、原告は右居住地に永年居住し昭和四二年分確定申告書、本件審査請求書記載の住所地も右同所とされており昭和四二年分所得税の更正加算税の賦課決定通知書も右同所に送付されたこと、しかも原告宛の郵便物は右同所に備え付けの郵便受けに投函されており、原告不在の場合は、右会社従業員ないし右儀兵衛もこれを受領したことがあること、原告の住民登録票上の住所は右実父田島儀兵衛と同じく名古屋市中区東橘町二丁目六六番地であること等が認められる。尤も甲第三号証によると被告が昭和四四年八月農業作況視察のため北海道帯広市の大正農業協同組合を訪ねたことが覗われるがそれが何時であつたか、又帰宅したのが何時であつたかは原告本人の供述によるも定かにこれを証明すべき証拠なく、従つて原告が右異議申立棄却の決定を現実に了知した日が何時であつたかも適格を証明しえず、よつてこの点に関する右田島証人、証人北条儀平の各証言、右原告本人の供述も措信しがたいところであるがこれら認定の事実によると原告の実父儀兵衛が原告と同居しておらず右会社に常時出勤しているものでなく、原告が右異議申立棄却の決定を現実に了知したのが原告の主張の頃であつたとしてもなお右原告の実父儀兵衛が右異議申立棄却決定通知書を受領した昭和四四年八月一六日をもつて原告が右決定の通知を了知し、これを受けたものという外はない。果して然らば原告は同月一七日から起算して一ケ月以内である同年九月一六日までに右の審査請求をしなければならないのに、右被告国税局長に本件審査請求のなされたのは右法定の期間経過後である同年九月二二日であること前記認定のとおりであるから、国税通則法第七九条第五項にいう天災その他やむをえない理由につき主張も立証もなされていない本件においては、右被告国税局長が行政不服審査法第四〇条により本件審査請求を不適法なものとして却下した裁決は適法であり、原告の右被告国税局長に対する本訴請求は爾余の点について判断をなすまでもなく理由がないからこれを棄却し従つて原告の右被告税務署長に対する訴は本案につき審及するまでなく国税通則法第八七条第一項の規定による不服申立の前置を欠き不適法であるからこれを却下し、民事訴訟法第八九条により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小沢三朗 裁判官 日高乙彦 裁判官 太田雅利)